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沖縄の視点から東アジアの安全保障を考える

沖縄の視点から東アジアの安全保障を考える  (文責:成瀬志津子)


OPAC Security Review Forum


 2003年年9月8日に、政策研究大学院大学の橋本晃和教授と留学生(10ヶ国18名)の沖縄訪問に際し、「OPAC Security Review Forum-沖縄の視点から最新東アジア情勢とその安全保障を考える-」と題する意見交換会を開催した。沖縄という視点からアジアの安全保障に対する問題提起がなされたほか、北朝鮮問題を抱える北東アジア情勢について活発な討議が行われた。


安保協力の枠組み

 現時点で、アジアには実体的な安保協力の取り組みは存在しない。ASEAN地域フォーラム(ARF)は、北朝鮮を含む地域の主要国家が参加してはいるものの、安全保障の枠組みとしては依然として初期の段階にあり、北東アジアにいたっては、各国が互いの意図を探り合い、もろい勢力バランスを保つ駆け引きに終始していて、地域的な安保協力体制を確立するにはほど遠いのが現状である。しかし、大切なことは、「存在しない」という現状認識の確認でとどまるのではなく、「なぜ」存在しないのか、「どんな」枠組みが現実的なのか、達成に向けて「どんな」アプローチが必要なのかを考えることだ。客観的な現状認識は将来に向けてのビジョンを描くためにこそある。


中国の民主化

 意見交換の中で、地域の不安定要因が話題にあがったが、中国の軍事力増強など、一般的な中国脅威論だけでなく、市場経済化やより開かれた政治構造の促進など、中国におけるポジティブな変化についても言及された。また、「民主主義国家同士は戦争をしない」という学説を引用しつつ中国の民主化促進への期待が表明されたが、『Norm(規範)』の確立と主権国家の選択肢の制約、民主主義国家の定義の変遷、超国家的な機構の誕生と成長、それにまつわる国際政治環境の変化など、この学説に絡めて今後さらに追求する必要があるだろう。


米朝不可侵条約と日米安保

 米国・北朝鮮間の不可侵条約締結の可能性についても意見交換がなされた。「日米安保と米朝不可侵条約との兼ね合い」に関する議論は特に興味深かった。不可侵条約とはいえ、北朝鮮が米国の同盟国を侵略した場合に、米国は侵略を黙認することはないという趣旨の条項を設け、米国が北朝鮮を意味もなく侵略しない(先制攻撃はしない)という程度の誓約になる可能性が高い。現状では、米国が日米安保に矛盾する形で米朝不可侵条約を締結すると考えるのは、非現実的である。それをあえて表に出すのは、日本もある意味、明確な「安全の保証」が欲しかったのであろう。


北朝鮮の核問題解決の鍵

 北朝鮮の核問題に関して、中国は間違いなくキープレーヤーである。意見交換の中で、中国は国家主権に対して非常に敏感なので、中国が米国からのプレッシャーに押し切られて行動しているように見せないことが重要だという趣旨の発言があったが、中国政府が国民から支持を得るためにも、こういった配慮は不可欠である。現実には、米政府高官が日本の核カードを切って中国にプレッシャーをかけるなど、その配慮がどこまでなされていたかには疑問が残るが、交渉相手の立場への配慮というのは、今回の対中国政策のみでなく、あらゆる交渉の場で重視されねばならないだろう。