総選挙後の日米関係 (文責:清水磨男・OPACインターン)
講師:村田晃嗣氏 / Koji Murata 同志社大学助教授
3つの選挙
第43回総選挙に関する新聞報道では、「自民後退民主躍進」と「与党絶対安定多数確保」という2種類の論調が示された。自民党は解散前より10議席減少したが、政権選択選挙と呼ばれた小選挙区制での与党の絶対安定多数は首相の信任と考えられ、後者の見解が支持できる。この日本の現状は『総選挙後』ではあるが、来年7月の参議院選挙、11月の米国大統領選挙がひかえていることを考えると、選挙前と定義した方が自然な状況である。
その中で日本外交の懸案事項には、ミサイル防衛の進展、防衛庁の省への昇格、『防衛計画の大綱』の見直し憲法改正、対中ODAの20%削減、国民保護法制、靖国参拝などがある。これらは個別に理由のある懸案事項であるが、立て続けに政治日程に上ることは確かでそれを中国や韓国などがどう捉えるかが問題となっている。
参議院選挙については、青木氏の自衛隊派遣容認発言などから参議院の与党は抵抗勢力にはならないと考えられる。これは次の参議院選挙で与党はイラク問題で不利だが、その時も小泉という看板を掲げた方が有利であると判断したためだ。
米国大統領選挙は経済成長率8.2%、失業率の低下大幅減税の実行、医療保険の導入、カリフォルニア州知事選挙結果などからブッシュ再選が有力視されている。一方の米国民主党は候補者難で、最有力のディーンはリベラル路線が、元NATO軍司令官のクラークは経済政策が足を引っぱっている。また大本命ヒラリーの出馬見送りも共和党有利に働いている。また、ブッシュが再選されてもパウエル、ラムズフェルド、アーミテージ、ケリーなどの再任の可能性は薄く、日米関係の将来は全く分からない。これは日米関係を考える際に特定の人脈に頼るのではなく、より長期的な広い視野で関係を構築していかなくてはならないことを示している。
日本とイラク問題
自衛隊イラク派遣支持の小泉首相が信任され、いまや日本に派遣以外の選択肢は無い。選挙で与党はイラク問題を避けたが、追及できなかった野党の責任は重い。有権者も知らなかったでは済まない。ここで問題となるのは、どれくらいの部隊を、いつ出すのかである。
ここで最悪なのは、政府の決定が中途半端になることで、時宜を逸した、中途半端な派遣は両方(派遣賛成派と反対派、米国側とテロ集団など)を怒らせることになる。また、不幸にして自衛隊員に死者が出た場合の遺族の態度や小泉首相の対応が、今後の日本のイラク政策を左右する。
もし日本が今から自衛隊の派遣を取りやめればどうなるか。大統領選挙前でもあり、ブッシュの怒りは非常に大きなものとなる。また、自衛隊派遣は米国では政党を問わずに期待されており、もしブッシュが負けても、そのとき米国民主党は深刻なイラク情勢を共和党から引き継ぐため、日本への圧力はむしろ高まる。また、日本の派遣中止が他国の撤兵につながる可能性もあり、米国はより厳しく日本の行動を注視している。
また、すでに派兵しているイタリア、ポーランドスペイン、オランダなどはどう考えるか。すでに派兵していながら、日本より下の同盟関係に扱われてきた韓国はどう思うか。また、仏・独・露は日本がここに来て派遣をやめることを歓迎するか。そもそも、自衛隊に関する日本の特殊な憲法事情を理解している国など無く、これらの国々は心から日本を軽蔑するであろう。
日本人の国際政治観
これは日本人の国際政治観の問題である。自衛隊派遣などは行ったときのメリットが少ないかもしれないが、行わない場合のデメリットがあまりにも大きい。日本人はそのことへの理解が弱い。衆議院選挙においてあれほどマニフェストが持てはやされたのに、国際的な公約への関心が低い。
日本人は日本の不作為に目が行かず、世界第2位の経済で国連安保理常任理事国入りを目指す日本が何かをしないということの重要さが分かっていない。一方では日本の影響力を過大視している。日本人は国際政治というものをもっと考えるべきである。
米国に対する見方
イラクでのテロが旧フセイン勢力によるものならば、今の悲惨な状況は、フセイン政権の酷さを露呈している。その体制を倒したという意味ではブッシュの決断も正しかった。しかし、イラク戦争の根底には疑義がある。その複雑性ゆえに歴史的な評価を下すのは時期尚早である。我々は知的にもっと慎重でなければならない。なぜなら、今我々が直面しているこの問題は世界でも初の出来事である。
現在の米国のような超大国はかつて存在したことが無く、構造上、歴史上の大問題である。そのため米国を批判する際には、時の政権、米国という国、世界初の超大国という3層の視点から、いずれに固有の問題なのかを考える必要がある。このような知的訓練を我々はすべきなのである。
他国が現在の米国ほど超大国になったときに謙虚で協調的になれるか、ということを我々は意識する必要がある。つまり、現在の米国への批判はどこまでが米国固有の問題なのかを考えなくてはならないそのために我々は常に多角的で長期的な視野が必要となる。
現実の政治は僅かな時間の中で、限られた情報をもとに行われている。そのことを、これまでに述べてきたこととともに常に意識し、我々は国際政治を考える必要がある。