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OPAC 政策提言『沖縄の負担軽減を実現するために』

OPAC 政策提言『沖縄の負担軽減を実現するために』


平成 19 年 3 月 26 日(月)
特定非営利活動法人 沖縄平和協力センター(OPAC)


概要

沖縄平和協力センター(OPAC)は、在沖米軍基地問題を国際安全保障の文脈を踏まえて分析する沖縄県内唯一のシンクタンクである。世界規模での米軍再編に伴い、日米防衛協力の枠組みと在日米軍の体制が見直されていることを受け、OPAC では、3 年前から米軍再編が沖縄に及ぼす影響について研究を続けている。在日米軍の再編に関する日米協議が本格化する中で、沖縄の負担軽減が日本政府によって最も重要な達成目標の一つとして掲げられた。そこで、OPAC は報告書『米軍再編と沖縄のグランドストラテジー』を 2005年3月に発表し、「海兵隊の分散化」をキーワードに沖縄の負担軽減に向けた現実的な選択肢を提案した。この提案は発表直後の国会審議でも取り上げられている。
 2006年5月には在日米軍の再編に関する日米合意がなされ、海兵隊の分散化を通じた在沖海兵隊員約半数のグアム移転と、それに伴う在沖米軍施設の返還が約束された。この合意は、沖縄の負担軽減に向けた大きな一里塚であり、合意内容が着実に履行されれば、沖縄の負担は大幅に軽減される。そこで OPAC では、日米合意で約束された沖縄の負担軽減を実現するために、現時点での合意履行の最大の障害となっている普天間飛行場移設問題の解決策を、日本政府と沖縄県政に対して提言することにした。

 沖縄県民は、普天間飛行場移設に対する沖縄の「心」と「現実」の均衡点としての選択を、選挙を通じて示してきた。2006 年 11 月の県知事選挙では、稲嶺県政を継承する仲井眞弘多氏が当選した。辺野古を抱える名護市では、比嘉鉄也氏から岸本建男氏を経て島袋吉和氏と、一貫して普天間飛行場代替施設の受け入れを容認する市長が続いている。これは、沖縄県民からの日本政府に向けた「対話の呼びかけ」として受け取ることができる。
 日本政府は、この「呼びかけ」に応える責任がある。他方、沖縄県民は負担軽減への第一歩となる今回の日米合意を、千載一遇の好機として逃さぬことが肝心である。積年の課題を解決するため、今こそ日本政府だけでなく沖縄県と名護市も大局的な見地に立ち、波長を一つに重ねあわせるときが訪れている。


情勢認識

【東アジアの安全保障】

 アーミテージレポートⅡでも指摘されたように、東アジアには、朝鮮半島と台湾海峡に安全保障上の懸念が残っている。最近では北朝鮮問題の影に隠れているが、中台問題の重要性を忘れてはいけない。中国の軍事力の増強に伴い、台湾が優勢であった軍事バランスは、2008 年にも崩れるのではないかと予想されている。その年には台湾総統選挙と北京オリンピックが控えており、中台間の政治状況も予断を許さない。


【米国と日本の政治状況】

 ブッシュ政権はイラクの対応で手一杯である。二期目を終えるブッシュ大統領の再出馬がないことから、米国では既に 2008 年の大統領選挙に向けて選挙戦が始まった。国防戦略の見直しを求められる新政権が、ブッシュ政権ほど米軍再編を優先課題とするかは疑わしい。他方、求心力の低下が続く安倍政権は、今夏に参議院選挙を迎える。その結果次第では、安倍首相が指導力を発揮する機会も失われかねない。


【沖縄が置かれた立場】

 以上のような周囲の情勢に鑑みれば、今回の合意履行を先延ばしとすることはできない。先延ばしとなれば、沖縄の負担軽減の「機会の窓」はさらに遠のくことになる。


提言内容

◎ 普天間飛行場代替施設の建設に向けて
  1. 平時において住宅地の上空を飛行しないために「V 字型」の滑走路が選択された。滑走路等の施設規模が「1,800m」に決まった理由は、ヘリコプター以外の航空機に対応するためであるが、日本政府はオスプレイの配備計画はないとした。以上について、日本政府は公式に再確認し、その詳細を沖縄県民に説明すべきである。
  2. 名護市が「沖合移動」を求めるのは、平時の騒音や緊急時の飛行経路に対して懸念を抱いているからである。日本政府は、日米の基本合意の許容範囲内で名護市の懸念を払拭する努力をする一方で、名護市は、この許容範囲を踏まえて、環境アセスや建設計画の検討過程で、「沖合移動」の要求を具体化していくべきである。

◎ 3年を目処とした普天間飛行場の閉鎖状態とは
  1. 「3年を目処」とは、純粋に期限を要求しているのだと判断すべきではない。普天間飛行場の早期返還を日本政府の責任で実現するという決意表明を、沖縄県は日本政府に要求しているのである。安倍首相は、その決意を自らの言葉で明確に沖縄県民に伝えるべきである。
  2. 「閉鎖状態」とは、完全な閉鎖を意味していない。普天間飛行場の緊急時の使用、最低限の整備・補給・兵站としての機能は維持しつつも、イラクやアフガニスタンといった国外での任務、沖縄県外の自衛隊基地での訓練といった運用上の調整・工夫を通じて、事実上の閉鎖状態を創り出すことを求めているに過ぎない。
  3. 日米間の基本合意の枠組みを柔軟に捉えれば、工夫次第で普天間飛行場の早期移設は可能である。キャンプ・シュワブの代替施設建設予定地に兵舎等の移設、整備・補給施設や駐機場の建設を先に行い、まずはヘリ基地としての機能を先行させ、順次移設を進めるべきである。「1,800m」の滑走路を含む施設規模が必要なのは、ヘリコプターの後継機としてオスプレイが配備される時である。現時点では、オスプレイの配備計画はないので、当座はヘリ基地機能が整っていればよいはずである。

◎ 日本政府に対する提言
  1. 日本政府と沖縄県・名護市は、相互不信の悪循環に陥っている。悪循環を断ち切ろうとする仲井眞県政や沖縄県民の努力に対し、日本政府は沖縄の負担軽減の第一歩を踏み出すことで応えなくてはならない。沖縄県民の信頼を回復するためには、普天間代替施設建設着工を待たずに、嘉手納より南の米軍施設返還の具体的プロセスを進めることが必要である。
  2. 安倍首相は沖縄県の信頼回復と並んで、「主張する外交」、「世界の中の日米同盟」、「自由と繁栄の弧」といった自らの安全保障政策の実現のためにも、普天間飛行場の早期移設に指導力を発揮すべきである。そのためには普天間代替施設建設を促す微調整は受け入れていくべきだ。

◎ 沖縄県政に対する提言
  1. 日米合意の実現は、確実に沖縄の負担軽減につながる。仲井眞知事は自らの政治的信条を貫き、合意の履行に向けて指導力を発揮すべきである。
  2. 日本政府に対して要求や批判を行う際は、振興策の引き出しや選挙戦での駆け引きといった短期的な利益計算とは切り離し、騒音軽減や危険性除去という日本国民の誰もが共感・納得できる観点から、真の県民益を追求すべきである。

以上