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米国防戦略のアジアシフトと日米同盟

米国防戦略のアジアシフトと日米同盟


2012 年 3 月 26 日
講師:川上高司 (拓殖大学 海外事情研究所 教授)


OPACの安保セミナーが一つの起爆剤となって米軍再編に関する様々なアイディアが出されてきたという経緯もあり、私も久しぶりの参加で楽しみにして参りました。さて、本日は「米国防戦略のアジアシフトと日米同盟」についてお話させていただきます。
その前に、少し現状について触れたいと思います。日本の今の状況ですが、民主党政権になって、外交的に取り残されています。在沖米軍再編に関しては米軍再編のロードマップ、グアム協定を見直すということで日米が合意しました。普天間の辺野古移設、在沖米海兵隊約 8000 人のグアム移転、嘉手納以南の基地返還という 3 つのリンクを切り離すということになったわけです。このリンク切り離しの背景には米国の国防戦略の変化があります。米国は昨年 11 月初旬の時点で、米軍再編とアジアシフト、普天間の継続使用を含めた戦略をすでに決定していたようです。普天間の辺野古移設方針は堅持すると言っていますが、普天間飛行場を補修し、グアム移転とリンクさせる。辺野古移設が無理でも、米側は普天間に継続して駐留する権利があるというわけですね。
日本側からすると一方的な話で、辺野古移設や嘉手納統合案など、第二の成田闘争に発展する可能性は否定できません。
米国の新国防戦略ですが、戦略基軸(Strategic Pivot)がシフトし、戦力の優先順位が中東からアジアへ移るというものです。イラクやアフガニスタンから兵力が引き、今度はオーストラリアへ米海兵隊を駐留させる。もちろん、中国に対する脆弱性を回避するという側面もあります。
この新国防戦略には 3 つのポイントがあります。まず、正面戦略から後退し、アジアへ戦略基軸がシフトする。次に、日本や韓国といったアジア地域の同盟国への影響。そして、今年の米大統領選とイラン問題に代表される中東への影響です。今年 2 月には米軍はイラクから完全撤退を果たし、イラク戦争が終結。昨年末には北朝鮮の金正日が死亡し朝鮮半島での状況が変化。アフガニスタンでも 2014 年の作戦終結に向けて米軍の段階的な撤退が進められるなど、世界情勢は変わりました。そして、国防戦略も変化したのです。中東のケースですが、陸上戦はまず無いという意見も多く、サイバーとスペースが重要な役割を果たすエア・シー・バトルで叩く可能性が高い。一方で、北朝鮮に対しては陸上部隊の投入もあり得ると考えられます。
世界規模での米軍再編ですが、次の 4 つの条件が揃ったことが背景にあります。まず、戦略的環境の変化。
次に、米国が直面する財政的な制約。そして、世界でのパワーシフト。最後に、米軍内での 4軍統合化です。米軍は、全世界規模での米軍再編の一環として、つまり大きな変化の中で在日米軍再編を進めようとしているわけです。
米軍の次の変化は 2015 年QDRでしょう。この流れは、実は日本にとっても色々と要求できるチャンスでもあるわけですが残念ながらそれに気づかずなかなか利用できないでいる。
さて、米戦略のアジアシフトですが、様々な意見もあるわけです。例えば、米軍はこれまでもアジアでのプレゼンスを維持しており、アジアを軽視してきたわけではないとする主張があります。また、アジアシフトといっても、極東ではなく東南アジアが重点だとする見方ですね。しかしながら、オーストラリアへの米軍駐留というのは大きな変化です。米英関係を彷彿させるものです。強固な関係にある国に海兵隊を駐留させるというわけです。日米同盟は、米英関係あるいは米豪関係のようになり得るとは思えません。今後は、米豪関係が米日関係よりも強くなってくると考えられます。
今年は米国では大統領選挙もあり、これも大きく米戦略に関わっています。イラン情勢、石油の価格高騰、失業問題とオバマ大統領にとって頭の痛い問題が多々あります。中国に対する強硬策なども報道されておりますが、実際には、軍事的抑止と共存を使い分けているわけです。また、財政的事情から国防費削減といった問題もあり、中国に対してどれくらいタフな戦略をとれるかということも問題です。共和党内では、このままでは米国は「張子の虎」になってしまい抑止力が維持できないのではないかとの懸念も出ています。しかし、米国が軍事費を削減しても、その額は中国のそれと比べると 4.5 倍、そして空母の保有数なども考慮に入れると、当面は問題ないと思います。とは言いましても、沖縄近海においては実際に中国漁船などが領海侵犯するといった目に見える脅威が存在します。ただし、これに対しては、米国の対応というよりも、日本政府がどう対処するかが問題になると思います。
ところで、在沖米海兵隊のグアム移転ですが、一番の問題は金銭的な事情です。在沖米海兵隊一部がグアムに移転しても抑止力は維持できます。ただ、予算がつかないということが問題なのです。日本政府が普天間飛行場の辺野古移設を実行できないことが最大の原因と言われますが、地元沖縄の反対などで辺野古移設が不可能な情勢にあるにも関わらず日米両政府の担当者らは辺野古移設を堅持しているという実態があります。つまり、思考を切り替えた本音の交渉ができていないのです。米国のウェッブ議員やマケイン議員はその状況に業を煮やして独自に動いているわけです。
在沖米軍再編の問題は在日米軍再編協議(DPRI)をそのまま実施すれば簡単に解決できたはずです。しかし、鳩山総理(当時)は事を複雑化してしまい、本筋が見えなくなってしまった。防衛省や外務省、さらにはマスコミまで、その歴史的過程や基地問題に対する知識がない方々に代わってしまった上に、政府の沖縄訪問などパフォーマンス的なものになっています。日本政府がいい加減なことをしているうちに米国ではおそらくオバマ大統領が再選し、中国へ軍事的抑止をかけると同時に裏では中国との共存体制をとると予測されます。さらに、裏の裏では中国に対して様々な圧力や要求を加える。
そのような中、日米関係は、まさに戦後最悪な状況にあります。中央政治は崩壊し、機能していない。この状況下で沖縄はどうすべきか。沖縄がリードしていくしかないのではないでしょうか。沖縄県が日本政府を利用する形で、米政府と交渉し、逆に沖縄側からも提案しつつ日本政府を引っ張っていくといったことが求められているように思います。