報告・ニュースレター

HOME > 報告書 > 沖縄を取り巻く政治・外交情勢

沖縄を取り巻く政治・外交情勢

OPAC安保講座「沖縄を取り巻く政治・外交情勢」


講師:川上高司 拓殖大学海外事情研究所 教授
日時:2012年10月25日 18:30 〜 20:00
場所:那覇市ぶんかテンブス館 3階


講演要旨(文責:大浜)

 現在の日本の政治は、「極」が無い状況にあります。民主党自体がいつ崩壊してもおかしくない状態です。首相官邸では、上下間、つまり政治家と官僚の間で上手く情報が流れていません。 在日米軍再編の見直しはというと、米海兵隊はぐっと引く。沖縄から引いて下がる。そしてAir Sea Battleで、沖縄にはMEUだけが残存し、残りはグアムへ下がるというわけです。展開しやすい軍を作るということです。
 ロムニーが大統領に選出された場合、彼の背後には多くのブッシュ政権時代のネオコンが存在しており彼らの影響が出ると考えられます。おそらくウィルソン主義となるでしょう。一方で、オバマ大統領の場合はジェファーソン主義です。そして、現時点では、オバマ大統領が再選する可能性が高いでしょう。
 さて、2025年問題といわれるものがあります。これは、中国の台頭という問題で、ちょうど2025年頃に米中の逆転が起き、米中間でのパワーシフトが起こるというものです。
軍事的に見ると、圧倒的優位に立つのは米国であり、中国は単なる張り子の虎に過ぎません。しかし、例えばGDPの変動などを含めた50年後といった長期的な経済面でみると懸念は残ります。中国の戦略スパンは100年単位といった超長期的なもので、しかも一党独裁の共産主義体制であることも考慮する必要があります。「チャイナ9」から一人没落しまししたが、これは新体制へ変動している兆候であり、現在はつまり「移行期」です。習近平体制に移りつつありますが、共産党体制であることに変わりはないのです。
 また、中国内部での社会的不安もあります。最近のデモなどは、貧富の格差に対する社会的不満が蔓延していることの表れです。また、格差是正のためにも中国政府は資源獲得へ向けた政策を推進するでしょう。中国は、自由で開かれた国際秩序を享受する一方で、核心的利益を追求するという難しい舵取りを迫られているのです。
 世界的に見ると、中国が台頭する一方で米国が衰退していく結果、無極化が起きると考えられます。また、イスラム過激派によるテロ、気候変動や人口変動、ソーシャルメディアの発展が可能にしたと言われる「アラブの春」、BRICSの成長なども無極化の要因となりえます。
 オバマ大統領は、国防費削減を迫られており、米国は今後5年間で総額7590億ドルもの国防費を削減する方針です。将来的に、米国は米本土を守ることはできるが大規模戦争を戦うことはできなくなるでしょう。中東への介入を避け、アジアシフトを進める。中東で起こっていたような状況がアジアで起こってくる可能性もあります。米の対中政策では、中国をヘッジする、抑え込む。国際社会に関与させ、責任あるステークホルダー、つまり利害関係国にする。普通の国にして、民主化するというわけです。
 2010年は中国にとって最悪の年と言われています。国力がつくまでは無茶はしないという鄧小平の方針から変化したのです。しかし、米国はすぐにそれに反応し、中国は元に戻った。2010年には、米国の対中戦略も変化しています。
 米軍は2012年1月5日に “Sustaining US Global Leadership” と題した新戦略を発表しており、もしオバマ大統領が再選すれば、この新戦略を基に新たなQDRを出してくるはずです。
 米軍戦略を分析するにはいくつかのポイントがあります。まず一つ目は、2正面戦略からの後退。そしてアジアシフトです。これは、中国を鑑み、アジア太平洋地域へ軍事力を重点配備するというものです。次に、アジア地域における同盟国との連携。そして、大統領選挙の影響です。同盟国との連携については、弱化した米国が引き、同盟あるいは友好国にそのパワーバキュームを補完してもらうTailored Deterrence (補完し合う抑止)への移行が背景にあります。
 尖閣問題に対する米国の方針ですが、米国は太平洋国家であるというアルフレッド・セイヤ―・マハンの「海を制する者は世界を制する」という考えが基盤にあります。在沖米軍基地にも関わる問題ですね。キャンベル国務次官補などは、尖閣は日米安保条約第5条の適用範囲と発言しています。ところが、米国は領土問題には関与しないという矛盾したもので、本当に介入してくるかは疑問です。中国がその気になれば尖閣は簡単に占領されます。そして、海保が出動して、その後に自衛隊の登場となるわけですが、自衛隊員が撃たれて初めて正当防衛で撃ち返すことが出来ます。続いて、集団的自衛権が発動され、米国側が介入するというシナリオ。ところが、中国側はもちろんそのシナリオを十分に理解しているので、絶対に撃ってこない。
 沖縄の渡名喜村入砂島での日米共同上陸訓練が、官邸によってキャンセルされました。これ以上訓練などして今中国を刺激したくないという官邸側の思惑が背景にあります。これには、米国側も驚いたわけです。このような訓練に優る抑止はないからです。日本の官邸は、今中国を刺激しない方向へと向いています。一方で、自衛隊・米軍は、軍軍関係も良好な今、抑止力を高めようとしているわけです。 尖閣問題と在沖米軍基地問題について考えると、今の日米安保同盟体制を立て直さないと沖縄の基地問題は解決しないということが言えます。尖閣諸島は、カイロ宣言を踏まえたサンフランシスコ講和条約(1951年)に基づき、沖縄の一部として米国の信託統治下に入ったと理解されます。1971年6月には沖縄返還協定が結ばれ、尖閣諸島も日本に返還されました。
 問題は、自民党から民主党へ政権が移行したときに、ほとんどの問題を引き継ぎしていないんですね。官僚は、聞かれないと言わない。あるいは、言っても、政治家が聞かない、または理解していない。野田政権が尖閣を国有化したことで、中国のメンツをつぶしてしまったんです。中国でのデモはまさに日本の政治家への警告。これは、襲撃された企業を見ても明らかで、駐中日本大使に決まっていた人が突然亡くなるといったこともありました。石原都知事が辞めるという話もあります。新党を結成して、また尖閣問題に関与してくる可能性もあるわけです。
 オスプレイ問題については、果たして日本にオスプレイが入ることを止められたか、ということがポイントです。これは、CH46機の代替機なので、阻止はできない。米側は、日米安保条約に基づく米軍の正当な権利だとして主張してくるので、日本政府は何も言えない。
 現在の野田政権は、米国の言いなりになってしまっています。多くの「借り」があって何も言えなくなっているんです。特に、東日本大震災での「トモダチ作戦」では多くの人を助けてくれた。今は、日本側は米側に対して多くの「借り」がある状況です。
 オスプレイ機では、多くの米兵が訓練で死亡していますが、少なくとも老朽化したCH46よりは安全だとは思います。しかし、ほとんどオートマチック操縦なので、ボタン一つ押し間違えるだけで大変危険な事態となると考えられます。同機は、「ロールスロイス」と評されることがありますが、つまり、使用感は良いが使うのは大変、ということです。大変繊細でもあるので、逆に戦地では使いにくい、使えない、というのが実情のようです。しかし、抑止力の向上には繋がる。航続距離、スピードがかなりアップする。対テロ、対中では重要な機能向上と言えます。
 沖縄に米軍が駐留している理由にはいくつかあると思います。まず、第一に台湾。しかし、オスプレイになり、沖縄でなくとも別にフィリピンでもよいはずです。CH46の時は、台湾有事を念頭に、米軍、海兵隊は沖縄にいる必要がありました。事実、米側でも海兵隊は横田や九州へ移しても問題はないという人もいます。
 問題は、日米安全保障条約は本当に機能するのか、ということではないでしょうか。つまり、有事には、例えば尖閣諸島での有事には、第5条が適用されるのかどうか。第5条を自動的に発動させる仕組みが重要になってくるでしょう。
 冷戦期は、日本には「巻き込まれる恐怖」がありました。現在はどうでしょう。「見捨てられる恐怖」にとって代わっています。主従関係の逆転が起きている。昔は、自衛隊が「従」で、米軍が「主」でしたが、今は、自衛隊が「主」で、米軍が「従」です。ということは、今後、自衛隊の能力、機能の向上が求められる。日本の抑止力は、冷戦期には「矛としての米国(米軍能力×在日米軍基地機能)」×「盾としての日本(自衛隊能力)」でした。自衛隊の能力はリージョナルに限定されていた。しかし冷戦後の日本の抑止力は、これまでのものに「日米共同行動」が要素として加わる。つまり、「矛としての米軍」×「盾としての日本」×「日米共同行動」となる。この日米共同行動は、リージョナルではなく、例えばアフガニスタンなどのようにグローバルなものです。
 冷戦後の在日米軍再編を巡る日米間の協議はいくつかの変遷を経ています。まず一つ目は、クリントン大統領と橋本首相による1996年のSACOの設置です。この背景には、ほぼ同時期に起こる二つの大規模地域紛争(2MRCs)への対応を掲げた1993年のBUR(Bottom-Up Review)があります。次に、2001年の9.11テロ、翌月発表されたQDR2001を受け、2002年12月にスタートしたブッシュ大統領・小泉首相による「防衛政策見直し協議」(Defense Policy Review Initiative: DPRI)です。そして、今度は、オバマ大統領・野田首相による在日米軍再編計画の見直しです。これで、普天間移設問題は事実上棚上げされた形となりました。背景には、イラクやアフガニスタンにおけるテロとの戦いの「終焉」があり、2012年1月の新米国防戦略発表、地球規模での米軍態勢の見直しがあります。今年2月に発表された在日米軍再編に関する日米共同文書、4月の2プラス2(日米安全保障協議委員会)、両首脳会談で、日本は米国がアジア太平洋に防衛上の優先度を移す指針を受け入れました。そして、普天間移設問題が切り離され、棚上げされたわけです。
 吉田ドクトリンは、京都大学教授であった高坂氏の言葉を借りると「米国との同盟関係を基本としそれによって安全を保障し、日本の防衛力は低く抑える一方、それで得られた余力を経済活動にあてる」というものです。日米安全保障成立には次の4つの前提条件があります。共通の軍事的脅威の存在、共通の脅威への共同対処、自由主義体制の維持、米国は地域防衛・日本は本土防衛、です。日本の最大の関心事は、いかに抑止力を確保するかにありました。吉田ドクトリンでは、日本の抑止力は在日米軍が主で、自衛隊が従です。しかし、ポスト吉田ドクトリンでは、自衛隊が主であり、在日米軍が従となる。ところが、米国は中国とは戦わない。中国は外交能力を高めるために軍事力を強化している。中国はつまりグレーゾーンであり、今後、日本にとっての脅威が果たして米国にとっても脅威であるのか、あるいは逆はどうなのかということが問題です。
 このままですと、日米同盟は有名無味化して無くなってしまう。米国は都合の良いように日本での基地を使うだけということになる。日本の属国化ですね。日本が中国と何かやろうとすると問題があってダメになる。日本がロシアと何かやろうとするとまた問題があってダメになるというわけです。
 日本は、マルチラテラルなアプローチをしていかなければなりません。物事がマルチラテラル化しており、そのアプローチをうまくやっていかないと日本は国益を追求できなくなる。
 米国が衰退する一方で中国が台頭するという米中間でのパワーシフトが起こっている。
 今後、沖縄の米軍基地をいつでも使えるような状態にして、米国は安全なところへ移る。その時、沖縄はどうするのか、日本はどうするのか。


Q&A

Q1.最近では経済界でも中国と少し距離を置こうとする動きがある。中国の経済成長にも陰りが見え始めている。中国一辺倒ではいけないと思う。平和ボケしている日本人は現実を直視する必要がある。例えば尖閣問題で事態が悪化し負傷者が出た場合、いやでも直視せざるを得ないと考えるが。

A:北朝鮮がミサイルを撃つだけ、そして中国が尖閣で脅しをかけるだけ日本の安保政策が驚くほど進展している。ある意味日本が普通の国になりつつある。核や集団的自衛権の問題など、過去60年のものをこの10年で驚くほどあっさりクリアしてしまった。日米安保同盟を考えればそれは良いといえるのかもしれない。しかし、これでは米国の思うつぼではないか。日本はきちんと国益に基づく安保の枠組みを作っていかなくてはならない。

Q2. 戦争自体の形態が変化していると思うが、サイバー戦などを考えても実際にドンパチが起こるとは考えにくい。これについて日本の安全保障の観点からどう思われるか。

A:米国は、Air Sea Battleのコンセプトの中に、サイバーを入れてやっている。例えば、空・海・陸でのスペシャリストを配置しており、おおよそ米では120人、中国が60人、日本人が10人。オバマ政権でも、実際にドンパチするわけではなく、Capture & Killであり、武器形態が変化。つまり、経済的に脆弱なところをまず攻撃する。そして、ICBMに核弾頭ではなく通常弾頭を装備し、15 20分で到達して破壊、killですね。

Q3.米大統領選挙は、短期的なスパンで沖縄へどのようなインパクトがあるのか。また、日本での衆院戦の沖縄へのインパクトについてもお聞かせ願いたい。

A:沖縄の基地問題へのインパクトは小さい。普天間問題はそのままだ。沖縄の価値が低下している、つまり顧みられていない。基地が強化され、外来機が多数飛来する可能性が高い。しかしそれは全て次期政権にかかっている。米内部でも、米海兵隊の普天間飛行場を日本本土へ移せると考える人は多い。しかし、その条件として、専門的に考えて施設・設備があり確実に移せるところを日本政府がきちんと示す必要があると言っている。果たして日本政府にそれができるかどうかだ。沖縄の負担軽減は在沖米軍の抑止力との関係がある。負担軽減が高まれば、抑止力が低下するという関係だ。

Q4.今後の尖閣問題のシナリオについてお聞かせ願いたい。

A:第三次野田政権は完全に中国シフト。特に田中まき子氏が政権に入っている。Appeasement つまり柔和政策をとる。野田政権のうちに中国のメンツは回復した。しかし、政権交代で安倍氏が新首相になると、話はまた違ってくる。

Q5.中国が領土問題というとき、尖閣には実は沖縄、琉球諸島も入ると思うのだが。

A:中国は、ソフトパワーで攻めてくる。軍事力ではなく、ソフトパワーで琉球の独立を望んでくるだろう。尖閣の次は琉球、次は九州、次は日本というような主張になる可能性もある。